永平寺

我々Roshi&Takaが訪れたのは某年2月中旬だった。羽田から小松空港に着いたのは午前10時頃で風花が舞っていた。
我々二人が住む神奈川も寒かったが、こちらの寒さは足元から立ち上り体中を巡り背筋や首筋が凍りつくような感覚である。JR小松駅から福井に向かい、京福電鉄の定期観光バスに乗った。バスが最初に向かったのは「永平寺」である。ここは言わずと知れた曹洞宗の大本山の一つである。


冬の永平寺は一面を覆う雪の白と僧侶たちの墨衣の水墨画の世界である。
遠くに見える雪を落とした木々が好対照となり墨絵の世界は一層の拡がりを見せる。深々とした寒さがなければ何時までも佇んで居たい気分である。永平寺では“瓦志納”と言う一種の寄付を募っている。これは、雪深い地にあるため毎年多くの瓦が破損し、それを取り替える為の寄進である。一人1000円以上を志納すると数珠と経本などが授けられる。我々二人も日頃の不信心を謝す意味も込め志納した。これで少しは、あの世に行っても報われるだろうか。


東尋坊























バスが次ぎに向かったのは「東尋坊」である。
ここは写真でもお分かりのとおり冬の日本海そのものである。
海も空も岩も全てが鈍色の世界である。
押し寄せる鉛色の波が砕けては散りそしてまた押し寄せる。


 
日本海を眺め写真などを撮っていると突然の強風が波の飛沫を大量にすくい上げ展望台を直撃した。逃げる間もなく展望台に砕け、そこに居た全員が頭からズブ濡れになった。
Takaさんは大げさだというが波が一本の垂直の柱になったように見えた。まるで細長い小型の竜巻のようにである。濡れた体を乾かしに入った食堂兼土産物屋でその話をしたら『長い間この地で商売をしているがそんな事は初めて』とのことであった。


ゆのくにの森

翌日はJR加賀温泉駅に向かった。
ここから「ゆのくにの森」と言う伝統工芸を一堂に集めたという施設に行こうという訳である。
駅からタクシーに乗ったのだが、このタクシーの運転士が我々を観光客とみて色々と言ってくる。『交通の便が悪いから貸し切りにしては・帰りのタクシーなどは無い・バスなど通っていない』等々。結論はタクシーは乗り場があり、バス停も直ぐ傍に有った。観光地に、この手の悪質な運転士は付き物だが、ほんの少しの不心得者がどれ程その地のイメージを貶めているか考えて欲しいものだ。










「ゆのくにの森」に入村、雪が降って来たので備え付けの傘を借り村内を巡る。

各地の民家を移築した各建物では加賀友禅、金箔細工、ガラス工芸、和紙細工、九谷焼その他の店や工房が点在している。
要するに土産物店の集合体と言えなくもないが移築された建物にはそれぞれの風情が感じられた。
 


兼六園























この日、次ぎに向かったのは金沢観光の定番「兼六園」である。
我々二人も過去に訪れているがRoshi&Takaが二人一緒は初めてである。雪も小止みになり寒さは厳しいが傘を差さずに歩けるのは有り難い。
先ずはお決まりの“ことじ灯籠”である。ここは、テレビや雑誌、新聞などで金沢を紹介するときに必ずと言っていいほど出てくる定番中の定番で、この灯籠をバックに写真を撮りビデオを回す人達が後を絶たない。
















そして冬の兼六園と言えば“雪吊り”である。
テレビのニュースなどで時季になると目にするので知ったつもりになっていたが実物を見るのは初めてである。実物は本当に見事である。綺麗な三角錐を描き、雪に映え水面に映える。緑萌える頃の兼六園も結構ではあるが風情を楽しむならやはり冬の方が良いだろう。我々二人は冷えた身体を茶店の甘酒で暖め時間の許す限り雪の兼六園を眺めていた。


江戸村

今回の旅の最終日、北越バスの定期観光バスに乗る。
雪が降りしきる中、各所を回ったがここで紹介するのは「江戸村」である。加賀、金沢方面の江戸時代の農家や豪商、庄屋や武家屋敷などを移築し展示している施設である。全てが往時の有力者の建物であるが中は驚くほどに質素である。そして建物そのものも広くはない。それでも当時のそれぞれの階級ではトップクラスの人達の住まいした家である。現代からみれば豊かには見えないが決して貧しさは感じられない。そのような建物を多数見ると本当の豊かさとは何なのかと柄にもなく考えてしまう。


今回の旅は最初から最後まで雪 雪 雪であった。
帰りの小松空港からの飛行機も欠航し、結局はダイヤの乱れたJRで名古屋に出て、そこから新幹線で新横浜まで帰って来た。
そして驚いた。神奈川も稀にみる大雪だったのである。新横浜からそれぞれの自宅に帰宅するのも難渋した。それを思うと旅先では雪に降られながらも目的地は全て巡ることが出来たのは幸運の一語に尽きるのだろう。あの時はとても辛く思えたものだが過ぎてしまえばそれも楽しい想い出である。でも、やはり降りしきる雪は重く辛い・・・。


写真:Taka
文章:Roshi