四国村 わら家

我々が訪れたのは某年1月中旬だった。冬とは言え、やはり四国だなと思わせる温かい陽気で日差しも眩しい。
先ず向かったのは四国村である。入り口の前に「わら家」と言ううどん屋があったので昼食を摂ることにした。藁葺き屋根の如何にも民芸風観光客向けの感がある造りである。客が結構いっぱい入っている。珍しく食券を購入するシステムである。ビールとざるうどんの食券を購入、フロア担当のおばさんに食券を渡す。
暫く待っていると注文の品が来た。だが、おかしい、うどんにジャガ芋と下ろし金が添えられているのだ。???ジャガ芋と見えたのは生姜であった。その生姜を擦り薬味にするのである。それにしても何とも大胆と言うか大雑把と言うか。しかし、これがとてつもなく美味であった。


四国村

腹も十分に満足したので、いよいよ四国村入村である。
ここは四国全県から往時の民家を移築展示している。
村内に入ると待ち受けているのが、かの有名な「祖谷の
かずら橋」である。中はいたって閑静である。







移築されている民家の数は多い。円錐形の砂糖しめ小屋、和紙造りの家、漁師小屋等々。そして一際大きいのが農村歌舞伎の舞台である。
観覧席は山肌を段々に削り腰掛けられるように出来ている。
ここに灯りを焚き歌舞伎が演じられたと思うと正しく幽玄の趣を感じる。




栗林公園

翌朝早々に栗林公園に出掛けた。
ここは特別名勝で紫雲山麓に広がる回遊式庭園である。
往時の高松藩主松平氏の別邸で純日本式庭園の南庭と洋風庭園の北庭の二つで構成され湧水を巧みに配し松林と見事な調和を作っている。







松林と前述したが、この栗林公園は名前とは裏腹に栗の木は数本しかないそうである。
どうしてかは寡聞にして分からぬが庭園が出来た当時は栗の木が沢山有ったのかも知れない。



栗林公園

この庭園は平地で見るより高台から眺めた方が見事さが良く分かる。
川に掛かった橋なども高台から見てこそバランスの妙を堪能出来る。
話は前後するが昨日の夕食は「かな泉」へ行った。ビール、酒を飲み釜上げうどんのセット物を注文した。
立派な漆塗りの桶に上げたてのうどんが泳ぎ湯気を吹いている。後で、飲みに行ったスナックの女の子に聞くと「かな泉」は土地っ子には、よそ行きの店なので普段は滅多に行かないとの事。土地っ子が普段行くのは、そこら中に有るごく普通のうどんを出す店で値段もとても安いのだそうだ。


玉藻公園

高松駅の直ぐ向かいにある玉藻公園へ行った。
豊臣秀吉の家臣、生駒親正が築城した水城が公園として開放されている。天守閣は現存せず、櫓があるのみである。屋根付きの橋がちょっと面白い。一歩中に入ると、そこが駅前にあるとは思えないほどの静けさである。時折響く汽笛が港の近いことを示す。塀越しに眺めればそこはもう海なのだ。この日の夕食は寿司にすることにした。高松は港町であり当然に海を控え魚も美味いと聞いたからである。市街のメインストリートにある一軒の小綺麗な店に入った。ここの店の寿司のコースは大当たりであった。寿司そのものも美味であったが先付けが見事なのだ。漆塗りの長方形の箱に簾が被され、それを開けると中は四つに仕切られ魚介類が和え物や煮こごりなどの形で供される。どれも少しずつだが薄味で上品な仕上げである。残念ながら店の名前は忘れてしまった。


大鳴戸橋

四国3日目は鳴門の渦潮を見に出掛けた。どんよりとした曇り空である。
バスに揺られ観潮船乗り場に着いた頃にはポツポツと降り出して来たが船には屋根があるので濡れる心配はない。
船に乗り込むと直ぐに出発だ。思ったより高速で馬力のある船である。アッと言う間に観潮ポイントに到着した。
雨模様のせいも多分にあるのだろうが海が咆哮しているように見え聞こえ不気味である。それでも今回の渦潮は中程度なのだそうだ。
この観潮船は約30分程度である。思っていたより短時間で渦潮見物が終わったので淡路島に渡ることにした。


淡路人形浄瑠璃館

淡路島に渡り、向かったのは大鳴門橋記念館である。
館内は淡路人形浄瑠璃館と、うずしお科学館に分かれている。
先ずは人形浄瑠璃を見ることにした。平素は我々二人とも浄瑠璃など全く視野に無いがご当地はやはり人形浄瑠璃である。1時間毎に上演され時間は約30分である。演目はポピュラーなものが多く我々が見たのも「傾城阿波の鳴門」と言う最もポピュラー定番物で、その中でも定番中の定番『子別れの段』である。
演じるのは浄瑠璃館の研究生とのことである。NHKなどで見る人間国宝が演じるものとは格段の差はあるものの、緩急宜しく溌剌としていて見ていても気持ちが良い。


演目終了後に舞台の仕掛けなどの説明がありこれも楽しい一幕である。浄瑠璃館の中は資料館にもなっており沢山の人形や頭が展示されている。お弓の頭の口元には針が仕込まれており、手ぬぐいをくわえるための仕掛がされている。成る程と思う。あとは手の動きで感情を表現しているとのことである。
その後に覗いた、うずしお科学館は立体映像で渦潮や淡路島の四季や祭りなどを紹介している。こちらも思った以上に迫力のある映像である。帰りはタクシーを利用せず大鳴門橋記念館前からのバスに乗った。


今回の四国、高松・鳴門・淡路島の旅は最後の日に小雨に降られはしたが概ね良い天気に恵まれた。そして旅の楽しさの内でも大きな「食べる楽しさ」が満喫できた。
我々TakaとRoshiは関東人なので、どちらかといえば蕎麦好みである。讃岐うどんの本場に行くのだから話のタネに1回くらいは食べてみてもいいかナァ程度の認識だったが実際に食してみて本当に美味かった。
寿司もまた然りである。うどんにせよ寿司にせよ殆ど期待していなかった分だけ美味さも倍加されたのだろう。
旅に出掛けるということは、期待へ出掛けることでもある。そして、四国の旅は良い意味で期待を裏切られた旅だったと思う。今頃あの「わら家」はどうしているだろう。相変わらず食券購入システムを維持しているのだろうか。あの寿司屋の先付けの美味しさは今でも変わらないだろうか。人形浄瑠璃館の若き研究生諸君は切磋琢磨しているだろうか。そして我々Roshi & taka の旅、次は何処に出掛けようか。

写真:Taka 
文章:Roshi