岡山駅前

東京駅から「のぞみ」に乗り、訪れたのは某年11月の下旬だった。
東京駅では肌寒さを感じたが岡山駅に降り立った時は温かいと言うほどではないもののそれ程の寒さは感じなかった。
岡山駅は各地の駅と変わらない扁平な駅ビルである。
面積の割りに飲食店を始めとした店舗が少ないように感じられた。



駅前広場の桃太郎像

岡山と言えば桃、桃と言えば桃太郎と言うことか駅前広場には桃太郎と家来の犬、猿、雉の銅像が旅行者を出迎え、通勤通学客たちを見守っている。
訪れたこの日は特にすることもなくホテルに入った。
夕食時にホテル近くの飲食店で食事をし岡山名物の「ままかりの酢漬け」を食した。
「ままかり」とはニシンの仲間のサッバという魚のことで、隣家からご飯(まま)を借りてまで食べてしまうほど美味なのでこの名が付いたそうである。
私にはご飯より日本酒に合う気がした。



岡山城

翌日は定期観光バスの「はやまわり後楽園・倉敷」コースに乗車した。
岡山城、後楽園、夢二郷土美術館、倉敷美観地区をその名のとおり5時間ほどで巡るコースである。
先ず訪れたのは「岡山城」である。
慶長2(1597)年、宇喜多秀家が築城し烏城と言われたほど壮麗だったそうだが、戦に敗れ徳川家康に没収されてからは落ち目の一途で終戦の年(昭和20年)の戦火で天守閣も焼け落ちてしまった。
現在の岡山城(天守閣)は昭和41年に再建されたものである。天守閣の中は地上6階地下1階のテーマパークである。戦国時代を映像や音響で表現したり、江戸時代の城下町が再現されていたり、城の歴史の展示があったりで、てんこ盛りではあるが印象が散漫になってしまう感がある。マァ、歴史資料や武具だけの展示よりは飽きがこないかも知れぬが。



後楽園 延養亭

岡山城から旭川に掛かる月見橋を渡ると「後楽園」である。
この庭園は日本三名園の一つで1686年、時の藩主 池田綱政により着工され1700年に完成した面積13万4千uの遠州流地泉回遊式庭園で三名園の中では二番目の広さである。
植え込みや建物の配置などの遠近感を上手く利用しているので、より広い印象を受ける。
庭園に入って直ぐ目に止まるのが「延養亭」という建物である。
ここは皇族方専用の休憩処だそうで中を見ることは出来ないが案外に質素な感じである。



後楽園 沢の池

そして近くでは鶴が訓練をしていた。この鶴は皇族方が来園の折りに出迎える為に飼われているそうで、一般の人がケージから出ている鶴を見ることは滅多になく、我々は運が良いのだそうだ。そこから暫く進むと「沢の池」になる。池のなかには幾つかの島が配されているが緑が薄く少しばかり寒々しい。この池ばかりではなく各所に田や林が配されているのだが時季が時季だけに常緑樹以外の緑が少ない。これが緑萌える頃ならさぞかしと思わされた。



倉敷美観地区 柳並木

最後に訪れたのは「倉敷美観地区」である。
本当は美観地区の前に「夢二郷土美術館」に回るのだが生憎の休館日とのことで美観地区直行となった。
生憎と言えば美観地区にある大原美術館や蜷川美術館などの有名所の美術館や資料館も軒並み休館であった。その代わりに美観地区の散策にはタップリと時間が取れる筈だったがそうでもなかった。
美観地区だけに昔からの家並みが保存されているので、それらの家々を見て回るだけでも結構時間が経ってしまう。休館日と言えども各美術館自体はそこにあるので、その佇まいを見るだけでも楽しい。



倉敷美観地区 アイビースクェア

定番のアイビースクェア、絡まる蔦の緑が濃い時季はもっと見事ではなどと思いつつ半枯れ状態も歴史を感じさせる“もの悲しさ”があり、これはこれで風情があるなどと物思いに耽っている内にバスに乗る時刻が来てしまった。



駅前広場の桃

岡山駅に着きバスを降りたのは午後5時近くであった。帰りの新幹線に乗るには未だ時間があったので駅の地下街でゆっくりとした夕食を済ませ地上に出ると大きな桃のイルミネーションが目に入った。
この桃のイルミネーションは岡山に到着した時に出迎えてくれた桃太郎の銅像の傍に有るのだが、到着した時には全く気付かなかった。そうだ、到着した時は未だ昼日中なので当然ながらイルミネーションは点灯しておらず目に止まらなかったと納得した。

桃太郎に迎えられ、桃に見送られた岡山行であった。



今回の旅は突然であった。溜まっていた代休が急に取れることになり慌てて行き先を探した。普段の旅なら少なくとも一ヶ月程度の余裕があり、その間に見どころ食べ所などを吟味するのだが今回は全く余裕が無かった。
時刻表を広げ、或る程度の距離で今まで行ったことが無い場所を拾い出し岡山・倉敷となった。
予備知識は後楽園ぐらいしか無いので時刻表から定期観光バスを予約し、ホテルを予約し往復の新幹線キップを買いに緑の窓口に走るというドタバタであった。結果としては期待した倉敷の美術館が休館日で入れなかったことは残念だったが雨に降られることもなく、寒さも大したことはなくマァマァだと思っている。但し、本格的な美術館巡りが目的なら定期観光バスはやめた方が良いだろう。観光バスは観光地を巡るだけなら便利この上ないが気に入った所があってもノンビリ出来ず、詰まらない所でも時間が来なければ出発しない。
今度、倉敷を訪れる機会があれば美術館や資料館の休館日に気を付け、電車を使い出掛けてみたい。倉敷駅から美観地区まではノンビリ歩いても精々15分くらいだ。古い家並みと川岸の柳並木にはノーンビリが似合うと思う。

写真と文章:Roshi